利用者さんは職員の心を映す鏡です
理事 佐藤信行
私は認知症高齢者グループホームで介護の仕事をしています。利用者さんは私にとって人生の先達であり、日々学ぶことばかりです。認知症の方は、食事、服薬、着替え、入浴の時に介護を拒否される場面が多々あります。そんな時、職員は動揺して「なんとか食べさせよう、薬を飲ませよう、着替えさせよう、お風呂に入れよう・・・」と焦ります。しかし、焦れば焦る程、動揺すれば動揺する程利用者さんの拒否は強くなり不穏になってゆきます。そしてその利用者さんの不穏な気持ちが他の利用者さんに伝わり、グループホーム全体が不穏な雰囲気となります。実は、この状態が毎日繰り返されるのがグループホームの実態です。
私が学んだことは「利用者さんは職員の心を映す鏡」です。利用者さんが拒否するのは、職員がその方を拒否しているのであり、利用者さんが不穏になるのは職員が動揺し心穏やかでないからです。職員の感情がそのまま利用者さんに反映されるわけです。私は拒否が想定される場面に遭遇する時に心がけていることがあります。「心の中に水を満たしたコップを置き、コップの縁から水がこぼれないようイメージしながら意識をコップに集中させる」ことです。自分の胸中の動揺が相手に伝わるならば平常心を保つために「心の中に波風が立たないように」とコップを水平に保つ意識を集中させるわけです。すると不思議なことに拒否は無くなります。
私は、認知症の方は他者の心の状態を察する特別な能力があるように思います。防衛本能から、身体のある機能が衰えた時にその機能を補うために別の機能が発達することは、視覚を失った人の聴覚や嗅覚が鋭くなる例が証明しています。とするならば、認知機能が衰えた人はその機能を補うために別の機能が発達すると推測できます。発達する機能とは「他者の心の状態や周辺の雰囲気を察する能力」です。身を守るためにこの感覚が鋭くなるわけです。職員は利用者さんに安心感を保障することが大切です。
安心感の保障は拒否の場面だけ繕っても上手くゆきません。大切なことは日々利用者さんを敬い、言葉遣いに気をつけ、思いやる気持ちを持って接することです。誰しも、その年齢に相応しい暮らしや扱われ方を願うものです。この繰り返しが信頼に繋がります。実は、信頼の土壌が作られれば拒否される場面も少なくなり、職員のストレスも軽減され、心の余裕が安心感の保障を省みる・・・この善い連鎖がグループホームをより善くしてゆくのです。