白隠禅師・内観の秘法・健康法
ストレスを感じることは、生きていれば誰でもあることです。ストレス・フリーな生活を送ることは、人が人であるかぎり可能なのかという疑問すら持っています。心理学者のケリー・マクゴニガルは『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』という本を出されていますが、ネガティブに感じやすい「ストレス」を積極的にとらえ直してみることを提案しています。うまくストレスをコントロールすることによって、自分の能力を高めることができる、そんな「ストレスに対する成長のマインド・セット」の考え方は、人の気持ちを前向きにさせることは事実です。さしあたって、ここではケリー・マクゴニガルの論に深入りをせず、しかし、それでもストレスが溜まった時に別の解消の仕方があり得るかについて考えてみたいと思います。
理屈でわかっていても、なかなか実践が難しい。ストレスが溜まるばかりで、「悩みが頭から離れず、大変困っている」という人は多いでしょう。私もその中の一人です。いや、おそらく私は、多くの人以上にストレスが溜まりやすい体質を持っているかもしれません。だから、継続的にストレスが溜まっていれば、十分な睡眠すらとれないことがあるのです。睡眠が削がれることこそ、私にとってさらなるストレスを溜めることになりますので、まずはそこをなんとかしたいという気持ちがずっとありました。
そんな悩みが続いていた時、偶然、白隠禅師の「内観の秘法」を知る機会を得ることができました。以前、私は高校の教員をしていましたので、生徒たちに教科内容として「宗教的教養」を授業で教える必要がありました。そこで、仏教・キリスト教・イスラム教について勉強する機会があったのです。その過程で、「白隠禅師」に出会い、修行のしすぎで禅病に悩まわれていた白隠禅師が「内観の秘法」に出会った経緯を知りました。しかし、その頃はあくまで授業をするうえでの「一つの情報」として私の記憶にとどめておいただけでした。その情報が現実のものとして私に立ち現れてきたのは、授業の場面ではありませんでした。
数年後、特別支援学校(当時は養護学校)に勤務することになりました。あることが原因で職場の人間関係に過剰なストレスを溜めていた頃でした。一方、その頃は「身体表現」に興味を寄せていたこともあって、特別支援学校の保健体育の教員で、なおかつ体操の専門家でもあるその先生から、ほぼ毎日、「身体表現」の技術を教示いただいていました。その一つの中に「腹式呼吸」の方法を教えていただきまして、実際にその方法をやってみると、身体の体温が温かくなってくるのでした。何度も何度も繰り返すと、「欠伸」が出てきて、不思議と眠たくなってきたのでした。その「腹式呼吸」を実践しているうちに、数年前に知識として記憶にとどめていた白隠禅師の「内観の秘法」を想起し、あらためて白隠禅師の通りに「内観の秘法」を実践してみると、身体の力が自然に抜けて、睡眠を十分とることができようになったのです。
ストレスが溜まるばかりで、「悩みが頭から離れず、大変困っている」という人のために、白隠禅師の「内観の秘法」は、力の入りすぎている自分の身体を楽にする方法として、非常に有効であると私は思っています。道具は何も必要ありません。あえて言えば、自分の身体一つあれば事足ります。
もちろん、自分の身体をリラックスさせる環境は必要ですので、敷布団あるいはベッド(マットでもよい)、自分の頭部に合った枕くらいはあったほうが良いかもしれませんね。ちなみに、私は敷布団(あるいはベッド)と枕だけで取り組むこともありますし、睡眠を取ろうと思うのであれば毛布や掛布団を身体にかけてもよいでしょう。
大切なことは、「自分なりに」取り組んでみることなのです。したがって、最終的に白隠禅師の「内観の秘法」に倣わなくてもよいと私は思っています。なぜなら、「内観の秘法」に取り組みたいのではなく、私にとって重要なことは、「力の入りすぎている自分の身体を楽にして十分な睡眠を取ること」だからです。
では、はじめましょう。
・まず、敷布団あるいはベッドの上に静かに横たわり、天井を見ます。
・目は軽く閉じ、両手と両足は、大の字にならないように、適度に開き、力を抜きます。口も少し開いてもよいでしょう。
・(私の場合は)自分の意識を両手、へその下あたり、両足に向けて、それ以外は、自分の身体を敷布団あるいはベッドにぐったりともたれさせます。
・静かに、ゆっくりと呼吸をします。
・次に、やや深くゆっくり息をして、息を吸い込んでしまってから、一瞬、息を止めます。
・止めてから静かに吐き出します。へその下あたりに意識をもっていくためには、止めた息をそこへ落としていれるように吐き出すとよいです。
・再び鼻孔から空気を静かに吸い、下腹がふくれた感じになります。
・そして、上記の腹式呼吸を繰り返し続けていきます。
以上です。
自分が抱えている悩みが頭から離れない場合は、腹式呼吸に意識を向けたり、腹式呼吸をするたびに心の中で数を数えたりするのもよいでしょう。
白隠禅師であれば、呼吸法を行いながら、次の内観の四句を心静かに観じて、心の働きをその句の意味に集中し、精神統一をして深く心に内観していくでしょう。
一、わがこの気海丹田腰脚足心、まさに是れわが本来の面目、面目なんの鼻孔かある。
二、わがこの気海丹田、まさに是れわが本分の家郷、家郷なんの消息かある。
三、わがこの気海丹田、まさに是れわが唯心の浄土、浄土なんの荘厳かある。
四、わがこの気海丹田、まさに是れわが己身の弥陀、弥陀なんの法をか説く。
これで、おしまいです。
私の場合は、白隠禅師のように四句を唱えず、意識をただ呼吸、そして数を数えることに集中するだけです。
保健体育の先生に教わったことは、吸った息を吐いたら、もう一度、自分の鼻孔にさきほど吐いた息が帰ってくるよう意識を向けて意気を吸いなさいと言われました。つまり、息が円を描くように自分に帰ってくるように呼吸をするということですね。
以上の呼吸法を繰り返していくうちに、身体が温かくになり、睡眠に入っていきます。