2008年(平成20年)秋のリーマン・ショック以降、「派遣切り」などで非正規労働者が解雇され、生活困窮に陥った人々が住居を喪失し、路上に放り出され、大きな社会問題になりました。そのことによって、雇用・住宅セーフティネットの脆さが露呈され、2009年(平成21年)以降、政府はいくつかの緊急雇用対策等を打ち出しましたが、雇用・住宅セーフティネットが健全に機能しているとは言い難い状況でした。今日、就労困難者、ひきこもり状態にある若者、非正規労働者、行き場のない高齢者、生活保護受給者、障がい者、児童養護施設出身者、シングルマザー、性暴力被害者、虐待被害者、DV被害者、被差別部落出身者等、社会的に不利な立場にある方々の生きづらさや働きにくさを改善する雇用・住宅・福祉政策の充実がより一層求められています。
その一方で、経済的困窮のみならず社会的に孤立をしている方々への「人的セーフティネット」の構築も叫ばれており、2012年(平成24年)6月24日、任意団体「生活困窮者連絡協議会」を発足致しました。都内の40以上の支援団体と連携し、多様な支援システムと地域ネットワークづくりの大きな一歩を踏み出しました。
その成果として、①様々な支援団体の交流を深めたこと、②各支援団体の役割を明確にすると同時に連携の道筋を探ることができたこと、③当事者のニーズに応じた連携機関を整備したこと、④シンポジウム等を通して生活困窮者の抱える社会構造的な問題をメディア等に発信できたこと、等が挙げられます。2015年(平成27年)4月より生活困窮者自立支援法は施行され、全国に約900ヶ所ある福祉事務所設置自治体に生活困窮者向けの相談窓口が開設されるとともに、失業等により一時的に住む家を確保できない方のために住居確保給付金の支給、生活福祉資金の貸付等の事業につなげ、経済面での援助ができるようになりました。しかし、自分たちでつくりあげたネットワークを活かして公的な支援に辿り着かない方々をいかにサポートできるかがカギとなると考えます。
社会的に不利な立場にある方々の抱える問題の主軸には「住まいと就労」の問題があり、今まで「生活困窮者連絡協議会」はネットワーク等を活かしてそれらの問題に取り組んできました。本法人では今までの取り組みを活かしつつ、さらに発展的な取り組みをしていきたいと考えています。
1つめは、社会的に不利な立場にある方々が安心して暮らせるオルタナティブな「住まいのあり方」を創造していくことです。住まいの貧困状態は改善に向かうばかりか、貧困ビジネス化するゲストハウスやシェアハウスの居住問題等、新たな事態が進行しています。とりわけ、高齢者・女性・障がい者・外国籍者、低所得単身者等、最も支援が必要な方々の居住環境が侵害されており、現行の住宅セーフティネットでは問題を解決できない状況にあります。そこで、社会が「住まい」を生み出す仕組みをつくり、様々な要因で劣悪な居住環境で生活されている方々が安心して暮らせる「住まい」を創造していくことが必要になってきています。
2つめは、「一般就労」や「福祉的就労」という働き方を尊重しつつ、社会的に不利な立場にある方々が安心して働き続けられる就労の場を創造し、「新しい働き方」を追求していきます。安心して暮らし続けるためには「収入の問題」は不可欠ですが、たんなる労働参加ではなく、経営の参画も含めて共同で運営し、労働の仕方は競争的でなく、助け合い、相互扶助の精神によって運営するという「働き方」が社会的に不利な立場にある方々に求められています。働く機会を奪われてきた当事者の方々にとっては社会に参加する「出番」を得ることにもつながります。社会的に不利な立場にある方々の社会参加と雇用創出こそ今問われている課題だと考えます。
3つめは、ソーシャル・ファームの視点で、まちの中に「人・お金・仕事」を循環させていく仕組みをつくりたいと考えています。この活動は就労の場を福祉政策から労働政策へと発展させていく取り組みでもあります。
特定非営利活動法人縁パワーは、社会的に不利な立場にある方々に、①安心・安全な住まいを提供するとともに、②働きやすい就労の場を創出し、③共に働き、共に生き、共に価値を創造し、新たな社会づくりをめざします。NPO法人化することで広く情報を公開し、私たちの活動がより公益性のある事業を展開することができるため、今般法人化することとなりました。
特定非営利活動法人縁パワー 理事長 山田 育男