理事・山田 明さん
九州共立大学准教授
NPO法人サービスラーニングフォーラム代表
先般、安全保障関連法が成立した。各層・各分野で賛否両論の議論が喧しく行われ、高校生を含む多くの若者が集会やデモを通じて意見表明する光景がテレビやインターネット上に映し出された。いよいよ、「18歳を市民に」とういう希望が現実となってきたようである。来年は、参議院選挙で18歳選挙権が実現することになり、現国会では成人年齢を18歳にする議論も行われている。
しかし、これらの事象を鑑みるに、一抹の不安を感じるのである。日本の若者に18歳(=市民)としての資質・能力、いわゆる市民性(シティズンシップ)が涵養されているのかということである。政治参加が可能になっても権利を行使し義務を全うする力が育っていなければ「18歳を市民に」は絵に描いた餅である。そこで、私は主権者教育の充実が喫緊の課題であると考えている。誤解を恐れずに言えば、主権者教育は市民性教育のカテゴリーに入る。市民性教育は、人権教育を基盤に主体的な社会参加のために必要な政治的スキルの教示、権利と義務に関する法教育、社会生活に必要な心の教育である道徳教育などが含まれ、主権者教育と重複する内容が多い。
現代日本における市民性教育について、主権者教育を視点に若者の政治参加をどのように支援していくべきか。その議論の材料として、英国(2000年、教科「シティズンシップ」を導入)、伝統的な市民性教育を実践してきた米国(ピルグリム・ファザーズを始祖にもち自由を標榜する自立した国家を形成した伝統と教育)が参考になる。
英国の教科「シティズンシップ」導入の背景に、文化的多様性への対応(ナショナル・アイデンティティー)、福祉国家の維持が困難になり若者に早期の自立を求める新自由主義からの要請、選挙における若者の政治的無関心への危機感があったとされる。米国の市民性教育、特にコミュニティ・サービスやサービス・ラーニングは、忘れかけた独立自尊の精神の復活、対ソをはじめとする先進技術の開発競争に勝つための学力の向上、国家財政の悪化(双子の赤字)に伴うボランィアの活用などが関係している。両国の市民教育導入の経緯は、日本においても共通な要素が多く、両国に学ぶことが必要ではないだろうか。
最後に、社会の役割に一言述べたい。若者が政治参加に興味や関心を持つことができる状況を如何に創出するかということである。全日本民主主義教育研究会が編集した『民主主義教育21別冊、政権交代とシティズンシップ』(同時代社、2010、84頁)によると、日本の市民性教育や主権者教育の充実のためには、若者の政治文化への環境整備が必要であるとしている。公共性を担保する役割を持った諸機関(例えば公共機関、図書館、学校、新聞など)が、意識的に子どもたちを政治的に成熟させることができるような責任あるコミュニケーション空間(公共的基盤、プロジェクト)をつくる役割を負うとしている。
机上の空論ではなく現実的な課題、18歳選挙権や18歳成人など「18歳を市民へ」を効果的に実現するために、社会全体で「市民」という言葉の定義を再確認し、教育の目的を明確にして、英国や米国などの先駆的な歴史や事例を参考にしつつ、日本独自の市民性教育を模索していくことが重要である。(終わり)
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