先日、東京都障がい者就業支援事業所の会・当事者の会はるじおんが発行された冊子「雑草魂」を拝読しました。私たちは当事者の方々の声を非常に大切にしている団体ですので、こうした当事者主体の冊子を拝読させていただくことは非常に貴重なことだと思っています。
当事者の会はるじおんの会員の方々は「看護学校や福祉の専門学校、講演会や家族会に呼ばれて体験談を話したり、区や団体の会の懐疑に当事者の立場から意見を出したり、電子書籍を出版して自己表現をしたりして活動」されおり、エネルギーに満ち溢れている人たちばかりとのことです。冊子「雑草魂」も「自分たちの声を社会に伝えたい」という思いから、すでにもう全4巻も発行されているようです。すごいですね。
冊子「雑草魂」の発行責任者は、冊子を作成する経緯を以下のように語っています。
「私たち障がい者は、いつも支援する人たちに支えられているだけでした。そして、精神障がい者についての情報と言えば、医師や親の会といったものに依存してきました。今、私たちに必要なのは、そういった支援する側の目線で発信された情報ではなく、私たちのことを私たちの言葉で発信することではないでしょうか」
発行責任者の方の言葉は、まさに「エンパワーメント」について語られていると思います。ここでは「エンパワーメント」の定義を「脊髄損傷患者のための社会参加ガイドブック」から援用します。
エンパワーメントとは「人々が本来持っている生きる力や主体性を取り戻し、できる限り自立し、自分たちの問題を自分たちで解決していける力を高めていこうという考え方」です。
エンパワーメントには、4つの次元があると言います。
1つめは「自己信頼」です。障がいを負ってしまった自分に再び自信を持ち、自分を信頼できる存在であると感じられるようになること。そのためには、自分の気持ちを受け止め、共感してもらい、わかってもらえたと感じることが大切だと言っています。
2つめは「相互理解」です。同じような問題を抱えた人々との出会いや語らいの大切さです。問題を持っているのは自分だけではないことや、お互いに助け合えることを知ることになります。
3つめは「権利の発見と主張」です。自分の置かれている状況と周囲の環境との関係や、社会、組織との関係を考え、そこで侵害されている自分の権利に気づき、主張すること。
4つめは「社会への働きかけ」です。同じような権利侵害や差別を受けている人々の権利を守るために、仲間や考えを同じくする人々と協力して社会に働きかけること。
エンパワーメントは社会的弱者という立場から自分らしさを取り戻し、自分自身を解放し、人間回復をめざしていく考え方です。
冊子「雑草魂」の発行責任者の言葉は、「エンパワーメントの4つの次元」、つまり、「自己信頼」「相互理解」「権利の発見と主張」「社会への働きかけ」を語っているのではないかと思うのです。
冊子の収録されている「座談会・これまで苦労したこと」では、当事者の方々の気持ちを受け止め、共感してもらい、わかってもらうだけでなく、同じような問題を抱えた人たちと出会い、そして語らう場になっています。そして、「私たちの言葉で社会に発信したい」という強い言葉には、「権利の発見と主張」及び「社会への働きかけ」に言及していますね。
冊子の巻頭には発行責任者の「冊子『雑草魂』」というタイトルの文章が掲載されています。興味深いことが書かれていますので、以下に引用します。
「『もし雑草を抜くのなら、その隣の花も抜きなさい』とひろさちやの『世捨人のすすめ』という本にうたわれています。雑草も花も同じ命です。両者は平等な命なのです。ですから、雑草を抜くのなら、その隣の花も平等に抜くべきだとするのです。仏教的な発想ですが、私は最初ものすごく驚きました。その優しさは世間の間尺で考えると、狂気かもしれないと感じました。そうだとすると、別に狂ってもいいんだ。と逆に開き直ることもできます。
そして、障害者と健常者の関係は花と雑草のようだと思いました。両者は平等の命かもしれないが、実際は花(健常者)を美しいとして、雑草(障害者)は抜かれていくのです。そこで私はあえて唱えたい。雑草も命であると・・・。雑草だって、あまり美しくないかもしれないが、花が咲き、実は生るのだということです。抜かないで欲しい。
雑草達の魂の集まりが、この『「雑草魂』の内容なのです。美しくないかもしれない。見劣りがするのかもしれない。しかし、雑草にだって花は咲くし、咲かせたいのです。そんな願いを込めて、私は冊子のタイトルを『雑草魂』にしたのです」
ステキな文章ですね。
発行責任者の言葉を引用しながら、「自然農」について思い出した。「自然農」は「雑草」のことを「草」と呼びます。「雑草とは人間の都合」でそう呼ばれているにすぎません。発行責任者の「雑草」とは、実は「草」のことを言っているのですね。私たちのグループホームができるだけ「自然農」に近い野菜作りをはじめたのは、まさに先刻引用した発行責任者の願いと同じでした。
したがって、巻頭の文章から私たちの心を打ったのです。
すばらしい冊子を作成された当事者の会はるじおんの方々に感謝申し上げます。