峰司郎さんが『リベラシオン』の中で、私の講演内容について報告してくださいました。非常に深く理解なさっている報告で、峰さんの独自の解釈も加え、講演内容の広がりが出てきました。また、講演の参加者の感想も含め、以下に紹介したいと思います。
峰さんや参加者からの意見や感想、非常に勉強になりました。この場を借りて感謝申し上げます。
第182回定例研究会(教育部会・啓発部会)・ジェンダー部会共同企画
「出口から問い直す進路保障 ~自立支援の現場からの提言~」
講師 山田育男さん 生活困窮者連絡協議会
2014年11月29日(土) 福岡市人権啓発センター
講師と参加者が「心を込めた」定例研究会
第182回定例研究会(教育部会・啓発部会・ジェンダー部会=共同企画)が、11月29日14時から福岡市人権啓発情報センターに行なわれた。
講演のはじめに、講師の山田育男さんは、出口から進路保障を問い直すために「①『年越し派遣村』はひとときの異常事態として片づけられない「何か」がある。②学校を卒業した後にどのようなことが起こりうるのかを想定したうえで「『進路保障とは何か』を私たちは問い直す必要がある。③個人の問題ではなく、社会構造的な問題として考えていく。」という3点の柱から問題を提起した。
一点目は、多くのグラフから非正規労働者の増加の現状が客観的事実として示されるとともに「ネットカフェ難民」「ハウジングプア」の概念規定がなされた。新聞やテレビで多くの言葉が一人歩きしている。用語を正確に知ることは問題点を整理する上で大いに参考になる。非正規労働者の「貧困のスパイラルの事例」や「カフカの階段」「相対的貧困率」「『いす取りゲーム』の比喩」などは、「部落差別の悪循環」と重なる点が多いと感じた。女性(ジェンダー)・しょうがい者・高齢者などが特に厳しい状況に置かれることは、人権教育における「個別の人権課題」でも指摘されている。社会的弱者といわれる人にしわよせが厳しくなっている事実にこだわることが「ひとときの異常事態では片づけられない『何か』」をめぐる作業につながっていく。
「非正規労働者」やホームレスなどの人に向けられる「自己責任論」は、その反転として「予断と偏見のまなざし」をつくり被差別と加差別という差別をつくっている。これは、個人の問題ではなく、社会意識として形成されていくものである。その問題の本質を追究することによって、三点目の「社会構造的な問題」がみえてくる。そして、「非正規労働者の自立支援」の法整備や「セーフティネット」づくりが国や社会の喫緊の課題であることに気づく。これを克服する視点として「何をなすべきか?」で4点の提起がなされた。特に「社会的事業所」についてはオルタナティブな取り組みである(これらの点についての詳細は別途何らかの形で紹介する予定です)。
山田さんは、自立支援の最前線に立つハローワークの職員の「差別的体質」とその支援の現状を東京のX区で生活困窮者支援をする者としての体験から具体的に話された。
山田さんは、182人の就労を実現した。その取り組みの要点の第一は、当事者の話を聞き、受けとめること。相談に来た人は、聞いてくれる人と出会うことで自分の存在価値に気づくという。これは、自尊感情を高めることの第一歩である。第二に不当な扱いに対しては、共に怒ること。山田さんは「エンパワーする就労をめざす」と言われている。これが第二の柱「進路保障の課題」につながっていく。
山田さんは、この進路保障の取り組みとして、①「出口にある」社会的構造によってつくられているいくつもの落とし穴に負けないレジリエンス(回復・弾力)を育てるという見通しに立つこと。②自立支援が必要な人に対する差別的な見方をしない、人権意識・人権感覚を育てることと語った。
山田さんの不当なことに対しては怒りを共有し、人を水平に見て寄り添うという生き方は、教職員や行政の窓口にいる人などにとって不可欠な脂質だといえる。また、この、共に寄り添い共に社会を変革していく主体であるという自己認識・他者認識の考え方は、人間化・相互止揚を促すP・フレイレを想起させた。
講演は、「大切なことはどれだけたくさんのことをしたかではなく、どれだけ心を込めたかです」というマザー・テレサの言葉からはじまった。山田さんの提起を受け、参加者も「心を込めて受けとめ」活発な意見交流がなされた。人権「同和」教育の大切さをあらためて確認すると共にこれからの実践に示唆を与えてくれた定例研究会であった。
参加者の感想(抜粋)
○非正規雇用も場合によってはホームレスになってしまう原因であるということを聞き、すごく身近な問題であることを感じた。児童養護施設における話では、自身の学校にも直結する問題でもあるため、背景、現状の把握など、知らなければならないことが多いと感じた。それが社会に出た後のサポートにもなると強く感じた。正規・非正規は個人の問題ではなく、構造的な問題である。その関係性の構築を重要視することが、その後の人生でどのようにして心の強みになるのか、自分なりのカタチとして持てた。「講演内容の根底にあるのは人権感覚だ」と言われたのを聞き、もっとすべてに対して「一人の人間という感覚」を持ちたいと感じた。
○学校現場ではなく、外部と連携をとり素晴らしい研究会に参加できたことを嬉しく思います。今回の研究会で学んだこと・感じたことは、私自身の教育生活に今後大きな影響を与えてくれると思います。生徒の就労「支援」ではなく、「保障」という観点からの提言には「生徒をいかに就職させるのか」ではなく、「生徒を就職させ、いかに自立し『生きる力』を養うか」という観点から今後生徒と関わっていきたいと思いました。その他にも男女の格差、児童養護施設、障がい、社会が密接に結びつき、結果的に負のスパイラルを生んでいるのだと感じることもできました。今回の研究会を自身の糧にし、生徒の進路保障に繋げていきたい。
○雇用セーフティネットを本当に必要とする人がそれを使用できないことは大きな問題だと思いました。また、話にハローワークでのホームレスの方への対応を聞いて驚きました。一度レールを外れると元に戻るまでに相当の努力を要する現代社会には、かなりの問題があると思います。それが元々ハンディを負っているならなおさらでしょう。
(峰 司郎)
以上です。