学生に心を込めて言葉を届けること
特定非営利活動法人縁パワー誕生後の最初の取り組みが2015年11月5日(木)の13時より東洋大学・白山キャンパスにて行われました。東洋大学社会学部教授・井沢泰樹先生の講義に招かれ、ゲストティーチャーとして「精神障がい者の就労支援 ~生きづらさや働きづらさを抱えた方々~」と題した講演をさせていただきました。
講演は約200名の学生に向かってマザー・テレサの「大切なことは、どれだけ多くのことや、偉大なことをしたかではなく、どれだけ心を込めたか、です」という言葉を引用し、多くの学生に心を込めて言葉を届けたいという私の気持ちを表明してからはじめました。
生きづらさ・働きにくさをキーワードに
講演は「生きづらさ・働きにくさ」というキーワードを講演内容の軸にし、最初は若者ホームレス、単身高齢者である外国籍者、児童養護出身者、触法障がい者等の事例を取り上げ、社会的に排除されやすい方々の抱える問題の背景には、①家族関係をめぐる問題、②精神保健をめぐる問題、③経済的な問題、④社会的関係をめぐる問題、⑤差別や偏見をめぐる問題、など、様々な要因が複合的に絡み合って、当事者は生きづらさ・働きづらさを抱えていることを整理しました。そうした方々が元気を取り戻すためには、「人から大切にされる経験を持つこと」、「安心・安全な場所から人とつながり合えること」、「自分が社会の役に立っているという充実感を持つこと」が必要であることをお伝えました。
「障がい者の生きづらさ・働きにくさ」では、①周囲の障がい理解が低い、②コミュニケーションが不得意で、人間関係をうまく結べない、③頼ることができる人・機関がない、④職に就くことが難しく、居場所もない、⑤誰からもサポートを受けられない中で、競争社会で生きることを強いられている、⑥自分の「生きづらさ」が複合的に絡んでいるためにうまく言葉にできず、自分自身で諸問題を解決できない、ことを説明しました。
精神障がいは身近な疾患である
次に、精神障がいとは何かを簡単に説明した後、「精神障がいは、誰でも起こりうる疾患です。私たちにとって身近な疾患なのです。にもかかわらず、これほど障がいの理解が深まらない疾患はありません」とお伝えし、私も含め、多くの学生も精神障がいになりうることを強調しました。ちなみに、井沢先生は講演の最後に「障がいのある人・ない人には境界というものはなく、連続的な関係で考えていくことなのではないか」とまとめてくださいました。
統合失調症の事例 ~ハートネットTVより~
学生に精神障がい者の実態を「ハートネットTV」で放送された「統合失調症」(9分間)を観ていただきました。
Kさん(男性)は大学院修了後、電機メーカーに就職。、営業のノルマが必要以上にきつく、退職。そのことで自分を責めます。15年前に「統合失調症」と診断。デイケアに通い、同じ境遇の方々と出会い、「悩んでいるのは自分だけではない」と気づきます。7年前から障がい者福祉施設でパソコンスタッフとして仕事をしはじめ、現在は服薬もし、睡眠も十分に取り、安定しています。悩みは「ちょっとした反応にとらわれてしまう」だそうです。
精神に障がいのある方々は病気になると、自分を受け入れることが嫌になると言います。障がいをマイナスに考えてしまい、一歩踏み出せません。しかし、障がいを持ったことで人の気持ちが今まで以上にわかるようになるなど、障がいをプラスに考えられることもあるはずです。つまり、障がいをプラスに考え、ありのままの自分を知り、受け入れ、今までの経験(強み)を活かすことが大切なのではないかと考えます。学生には「これは何も障がいの方々だけではなく、障がいを持たない方にも言えることではないでしょうか」とお話しました。
働くためのビタミン・エンパワーメントの大切さ
講演の最後は、障がいのある方々が「働くために欠かせないビタミンA・B・C・D・E」である、①(自分自身を)愛すること、②「Be」(ありのままの自分であること)、③コミュニケーション、④縁、を紹介した後、エンパワーメントの大切さ(自己信頼・相互理解・権利の発見と主張・社会への働きかけ)をお話しをしました。
以前に「働くために欠かせないビタミン」についてご紹介しましたので、本日は「エンパワーメントの大切さ」について説明させていただきます。
特定非営利活動法人縁パワーの名称の「縁パワー」の由来は「エンパワーメント」から来ています。ここでは「エンパワーメント」の定義を「脊髄損傷患者のための社会参加ガイドブック」から援用します。
エンパワーメントとは「人々が本来持っている生きる力や主体性を取り戻し、できる限り自立し、自分たちの問題を自分たちで解決していける力を高めていこうという考え方」です。
エンパワーメントには、4つの次元があると言います。1つめは「自己信頼」です。障がいを負ってしまった自分に再び自信を持ち、自分を信頼できる存在であると感じられるようになること。そのためには、自分の気持ちを受け止め、共感してもらい、わかってもらえたと感じることが大切だと言っています。2つめは「相互理解」です。同じような問題を抱えた人々との出会いや語らいの大切さです。問題を持っているのは自分だけではないことや、お互いに助け合えることを知ることになります。3つめは「権利の発見と主張」です。自分の置かれている状況と周囲の環境との関係や、社会、組織との関係を考え、そこで侵害されている自分の権利に気づきも主張すること。4つめは「社会への働きかけ」です。同じような権利侵害や差別を受けている人々の権利を守るために、仲間や考えを同じくする人々と協力して社会に働きかけることの大切さです。
エンパワーメントは社会的弱者という立場から自分らしさを取り戻し、自分自身を解放し、人間回復をめざしていく考え方です。
200名以上の学生たちが真剣に講演を聴いてくださり、すばらしい感想もいただきました。今後、ご紹介できればと思っています。