2008年の結成以来、住まいの貧困に取り組むネットワークは、すべての人が安心できる住まいを確保するために、様々な団体が集まってできたネットワークです。居住差別、追い出し屋、保証人問題、家賃補助、脱法ハウス問題など、「住まいの貧困」に関する様々な問題に取り組んでいます。
ネットワークの世話人は、住まい連代表・日本住宅会議理事の坂庭国晴さん、・つくろい東京ファンド代表理事の稲葉剛さんです。「住まいの貧困」問題に自覚的に取り組むきっかけをつくってくださった方です。この場をお借りして感謝申し上げます。
私は、ネットワーク3周年記念イベントのシンポジウム(2012年4月)の報告者(「住宅手当制度の現状と課題」)としてはじめて参加し、それ以来、お世話になっている団体です。
2013年4月7日、住まいの貧困に取り組むネットワークの4周年記念イベントが行われました。テーマは「人が大切にされる住まいと暮らしを」です。「人が大切にされる」という言葉をタイトルの頭に据えましたのは、私たちの住まいと暮らしの中に、どれほど「人が大切にされてきたか」という疑問があり、社会的に排除されてきた方は「住まいの人権」すら保障されてこなかったのではないかという実情があるわけです。
とりわけ、ホームレスの方、高齢者、身体・知的・精神障がい、発達障がいを持たれている方、ご両親のいない方、虐待を受けてこられた方、女性の方、外国籍の方などは、生きること自体が多くのハードルを抱えています。
そうした方たちの居住問題に焦点を据え、社会的に排除されている方たちがどれだけ「住まいの人権」を保障されていないかを、現場の支援者の側から可視化していくことをねらいに、シンポジウムを行なったのです。
報告は稲葉剛さん「高齢者、路上生活者の居住貧困の解決を」、TENOHASI代表の森川すいめいさん「障がい者の住まい問題~希望の見えない社会、私たちは何をめざすのか~」、子供の家施設長の早川悟司さん「児童養護施設退所者の住生活~社会的養護を考える~」、二場美由紀さん「女性の居住問題と安心・安全の権利について」、カラカサンの鈴木健さん「外国籍者の居住問題とカラカサンの活動」、シンポジウムの全体統括は住まい連の坂庭国晴さん、シンポジウム・コーディネーターは私が担当しました。
このシンポジウムは好評だったため、住まいに取り組むネットワークは冊子としてまとめ、「住まいの貧困」問題を世に問うことになりました。編集は坂庭さん、私です。ご興味のある方は本ネットワークにお問い合わせいただければ幸いです。
簡単にその冊子の内容を紹介できればと考えていますが、さしたありここでお話をさせていただきたいことは、以下の点です。
1)単身・高齢の生活保護受給者がアパートに入居する際、老朽化した木造アパートを選ばざるをえない」という状況にこそ、「たまゆら」火災同様、現代の「住まいの貧困」「住宅政策の貧困」を象徴する構造的な問題があります。
2)このアパートは民間賃貸住宅市場において「福祉可」(生活保護受給者を受け入れるという意味)と呼ばれている物件の1つであったことが明らかになりました。こうした「福祉可」物件の多くは、他の人が見向きもしない、老朽化した木造アパートであることが多いのが特徴です。ここには、民間の賃貸住宅市場でアパートを借りにくい単身・高齢の低所得者が劣悪な物件に吸い寄せられてしまう、という構造があります。
3)野宿の人たちが生活保護を申請しても、民間宿泊所に入所することを受給の要件として説明をする福祉事務所が多くあります。
本来ならば、生活保護は居宅での保護が原則なのですが、役所が貧困ビジネスと結託しているような状況があります。
民間宿泊所の中には居住環境や衛生環境が劣悪なところが多く、相部屋ゆえに人間関係のトラブルも頻発しています。そのため、民間宿泊所に入りたくないために路上で我慢をしているという方もたくさんいます。
4)ホームレス状態におかれている方々のなかには精神障がいや知的障がいの割合が多いと言われていますがそのことを実態調査から明らかにしてくださった意義は大きかったと思います。
それは、精神障がいや知的障がいがあるとホームレスになるということはなくて、障がいをもつ方がいかに社会的に排除されやすい状態に置かれているか、排除されやすい存在とさせられているかということをTENOHASIらは教えてくださったのです。
5)重度や中度の障がいはご本人も周りの人も認知しやすいため、その方が必要とする福祉サービスにつなげるのはさほど難しいことではありません。しかし、見た目ではわからず、会話もある程度できる、でも少し深い話をすると、「あれ?」というような感じになるわけですね。「困っている」ことを「困っている」と言うことができないために、またそれを周りの人も察知できないために、だんだんと排除されていくわけです。
6)児童養護施設では家庭で何らかの虐待を受けた児童が大半です。厚労省は公式には六割を超えたといっていますけども、虐待の定義も抽象度が高いので、ネグレクトとか広義のものを含めるとほとんどの子どもが被虐待児童だと考えていいかと思います。その次に保護者の状況は「単身」「低学歴」「低所得」に加え「社会的孤立」が特徴。要するに、大半が母子家庭だったり、再婚家庭ですね。子どもを虐待している親というのは人格的に何か問題があって、よくワイドショーなんかで鬼母とかなんて呼び方なんかのジャーナリスティックな報道が多いんですけども、じゃあ本当にそういう特殊な本当におかしな親が起こしている問題なのかといったらまったくそうではないと思っています。親の状況というのは、要するに社会的にもう孤立しているんですね。はっきりいって貧困問題です。親がもう社会的に孤立をしていて、経済的にも困窮していて、それでも人知れず誰から褒められもせず、支えられもせず、一生懸命自分の子どもを生み、育て、だけどもう一人で頑張りきれなくなってエラーが起きているんですね。だから虐待というのはレッテルを貼るんじゃなくて、現象として起きているエラーだということなんです。
7)退所後三年を超えると公的な保証人制度がありません。退所後三年までは、逆に言うと保証人制度があるんですが、これも本と数年前に国で制度化されて、ちょっと前まではまったく保証人制度がなかったんですね、だから施設を出ると、アパート借りられないんです、おかしいでしょっていうことなんですけども、なので昔はその辺すごい苦労していたのでよく使われていたのがここにある「住み込み就労」ですね、蕎麦屋の二階とかに住まわせてもらって、就職と同時に働く。これが本当にハイリスクなんですね、そういう場合には労基法もへったくれもなく、休みだろうがなんだろうが呼ばれて使われるわけですね。で、仕事がもう・・たまらん・・もっと遊びたいのに、周りの皆は遊んでるのに何でこんなに働かなきゃいけないの?といって仕事をやめてしまうと、とたんにホームレスです。これが男性の場合は昔はヤクザ、今はホームレス、女性の場合は今も昔も性産業です。そういった形で一八歳未満で社会に出されてしまうと、女性の場合は性産業に行くか、男性のところを泊まり歩くというところで、性被害の繰り返しというようなことがあります。
8)相対的貧困率のグラフから明らかなように、ほぼ全年齢において女性は男性よりも貧困率が高く、とりわけ母子世帯、母子世帯の子ども、高齢単身女性の貧困率が際立っています。女性がこれほどまでに貧困状態におかれやすいのはなぜなのか。単なる経済の問題としてだけではなく、その背景に深く根差している差別の問題、社会構造の問題として捉えなくては根本的な解決策は見えてこないのではないでしょうか。
家父長制のもと、長い間女性は一種の動産として扱われてきました。結婚前は父親に養われ、結婚後は夫に扶養され、老後は子に面倒を見てもらう存在とされていたため、女性は自分の家をもつ必要がない存在とされ、そのための経済力も持ちえませんでした。女性は、家事、育児、介護等のアンペイドワークを行ない、職場では補助的労働者とみなされてきました。男性片働きモデルは、女性が結婚して男性に扶養されることを想定しているため、非婚・未婚・離婚女性、シングルマザーは貧困が当たり前だと思わされてきました。現在も出産の際に仕事か出産かの選択を迫られ、辞めざるを得ない人が多くいます。子どもが小学校にあがる頃に再び働きだす人もいますが、多くはパート労働であり、女性の人生には、無収入と低賃金の時期が織り込まれています。
また、一旦仕事をやめると、正規雇用の仕事を探すのはさらに難しくなります。結果として、高齢になってから受給する年金額は少なくなり、無年金問題も深刻です。性別役割分担とそれに基づく社会の仕組みは、男女の賃金格差を見れば明らかなように、経済力を女性から奪い、男女が対等な関係になり得ない社会構造となっています。
9)ある不動産会社が、学生と若い男女を対象におこなったインターネットのアンケート調査を見て考えさせられたことがあります。調査結果によると、女子学生や若い女性は男子学生や若い男性よりも高い家賃のアパートやマンションに住んでいました。女性は男性よりも貧困率が高いのに、なぜ男性よりも高い家賃を払っているのでしょうか?そのヒントは、女性が住居を選ぶ際に重視するポイントにありました。女性は何よりも安全面やセキュリティ面を重視し、1階よりは2階、オートロックがついている、駅から近い物件を探します。一般に、階が上がるごとに家賃は上がり、オートロックがあるマンションはアパートよりも高く、駅に近いほど家賃も跳ね上がります。
女性は安心して暮らすために、安全を買わなければならないのです。女性は安全に暮らすためにいかに多くのことに注意を払い、より安全な方法を選択しながら生活しているのかと驚かされます。
10)日本には移住者を受け入れる政策・施策がなく、これが移住者の住宅に関する問題に影響しています。日本社会の中で外国籍者が居住できるエリアというのは制限されてきたという歴史があります。
公的な施策がないので、同胞・親族のネットワークで、日本社会の中でお互いに支え合い、生きてきたのではないかと思います。
外国籍のフィリピンの方が不動産会社のドアを開けると、「うち外国人ダメだから」と言われ、(最近は外国人だけで「NO」というのはだいぶなくなってきたといいますが)不動産会社事態に入れさせてもらえなかったケースもあるくらいです。
最近、保証会社を使う時、「日本人を連れてきて」と言われ、そこで躓いてしまうといいます。
シンポジウムあるいは冊子の内容すべてを紹介することができず、残念です。
言葉足らずの部分があると思いますので、その点はご容赦いただければ幸いです。
また、詳細をお知りになりたい方は、『人が大切にされる住まいと暮らしを』をお読みいただければと思います。