「まず、生徒と自分が一緒に楽しむ。『一期一会』を含めて、『偶然』を楽しむ」を教育実践スタイルとするのは、私の尊敬する佐藤功さんです。佐藤さんは足掛け3年にも及ぶ「門真市車いすMAPつくり」の記録を、『気がついたらボランティア』(学事出版)という著書に、軽やかでユーモラスの文体でまとめました。
『気がついたらボランティア』が刊行されてからすでに15年以上も経過していますが、様々な視点で考えさせられることが多く、私にとっては「新刊」を読んでいる気分にさせられます。ちなみに、著書では「航薫平」というペンネームを使っています。
※佐藤功さんとは個人的にも大変お世話になっており、私にとって忘れることのできない方です。ちなみに、現在、佐藤さんは高校教員を退職され、大学の先生になられています。
大阪府立門真西高校の生徒会を中心に広がっていったこの活動は、高校生たちが、障がい者用トイレや駐車場の有無などが載った生活便利MAPをつくるために、地元の中高生や地域の大人たちに活動を呼び掛け、老若男女百人を超す賛同者を集めた市民活動です。
この活動は、かつて佐藤さんが担任だった時のN君(当時はすでに卒業生)の「車イスでも気軽に入れる店の一覧表があれば便利なんだが・・・」とぽつんと呟いたこの言葉に、後輩たちが応えたことがきっかけでありました。
N君は高校在学中、交通事故で下半身不随意、頸髄損傷による発汗機能障害になり、一生涯、車イスが必要な生活を余儀なくされた生徒でした。
卒業後、職場の定休日によく学校に訪ねてきましたが、N君がますます引っ込み思案になったように感じていた佐藤さんは、N君に対して、その後もかかわっていきます。そのN君がたまたま学校に訪れ、生徒会執行部の生徒何人かと会話をしていた際、偶然、「車イスMAPつくり」の発想となる言葉が湧き出たのでした。
佐藤さんの著書は、N君から湧き出た言葉を、生徒会執行部がどのように市民活動まで押し広げ、地域に住む方々の関係にまでつなげていったのかについて書かれています。
ある方は佐藤さんの著書について、こう評しています。
「考えられるありとあらゆる手だてを尽くし、それに応えてくれた公的機関やマスコミや地域の人々の層の厚みがわかる。この運動の主役が高校生たちだからこそ、街の人々をはじとする大人社会のやさしさを引き出していく。そして、大人を励ましながら、中高生も元気になっていく。」
この著書の魅力は、活動に参加するみんなが励まされ、元気になっていくことです。そればかりではありません。自暴自棄になり、気持ちが落ち込んでいるN君を佐藤さんはいつも傍で励まし、元気づけます。
かつてできたことが障がいを持つことでできなくなってしまい、自分が嫌になっていきます。障がいをマイナスに考えてしまい、一歩踏み出せなくなってしまうのです。
佐藤さんはN君に共感する仲間と出会わせ、地域の人々へとつなげていきますが、ここには明らかに「エンパワーメント」の考え方があると感じました。
私にとって今でも新しく、人とのかかわりの大切さを考えさせてくれる貴重な本です。
障がい者グループホームを運営する今だからこそ、この本の中にある「大切なこと」をもう一度学びたいと思っています。