著作.神谷和宏 ウルトラマン[正義の哲学] 出版.朝日文庫 2015年3月30日第一刷発行 を読みました。
私は、1966年生まれなので幼少期をテレビの特撮物を観て育ち、特にウルトラマンシリーズは大好きでキャラクターグッズを毎晩枕元に置き、地球防衛軍 極東支部の隊員なって活躍する自分の姿を夢見て寝ていました。今でも、マンションの機械式駐車場から車を出すときに[・・・ワンダバダ ダダダ ワンダバダ ダダダ オープン ザ ゲイト オープン ザ ゲイト・・・]と心の中で呟きながら車が降りてくるのを待ちます。
そんな私が書店の棚を物色している時に文庫のタイトルに惹かれて即購入しました。
裏表紙に・・・[ウルトラマン]をテキストに善悪とは何かを考察する講義を再現!地球人とウルトラマンは絶対的な善で怪獣や異星人は必ず倒されるべき存在なのか?・・・と書いてありました。[正義]については、私も[普遍的な正義は在るのか?]といった先人達が悩み続けた問いに悩み、なんとなく見えてきたのは、[悪を設定し、悪を懲らしめる側に立つことで正義を名乗れる構図]です。明治維新で一夜にして官と賊とが入れ換わり、1945年8月15日を境に価値が逆転した歴史から私が得た教訓は、[正義は移ろいやすく、正義を声高に叫ぶ奴は危なく、価値が逆転する時は多くの血が流れる]ことです。大切なことは正義を問い続ける姿勢です。
本の中で著者は、ウルトラマンシリーズに一貫しているテーマは[ウルトラマンや防衛隊が、自分は正しいのか?怪獣や異星人は悪なのか?と葛藤している姿であり、怪獣や異星人を生んだものへの想像とまなざし]と語っています。これは私が得た教訓と重なります。以下に、私の心の琴線に触れた箇所を本文より引用します。
⚫[帰ってきたウルトラマン]の印象的な一編に[怪獣使いと少年]があります。このストーリーも、暴徒化した大衆が、ただただ[自分たちと違うから][不気味だから]という理由だけで罪のない宇宙人を迫害し、果てには警察官が、自分たちの治安を守らんと、悲しい結果として宇宙人を殺害してしまうという、すなわち[他者]は[敵]であるという不安が周囲に伝播し、集団の論理として、それが[正義]に昇華してしまったことによる悲劇を描いたものです。 (本文四頁より引用)
⚫犠牲者として描かれる怪獣たち・・・。近代化や合理主義は日本の成長を進める[光]であり[正義]であると同時に、なぜ犠牲者も生むのでしょうか。アドルノ、ホルクハイマーといったドイツの哲学者は、文明が進みすぎることで犠牲者が生じる状態を[文明で武装した新たな野蛮]と呼びました。(本文八十九頁引用)
⚫藤子・F・不二雄氏の作品に影響を受けた部分が多々あります。・・・[イヤなイヤなイヤな奴]という一編があります。この作品の主人公は[にくまれ屋]です。・・・にくまれ屋は依頼を受けると、多額の報酬を得る代わりに、ある集団の中で、[にくまれ屋]に徹します。・・・生理的な嫌悪感を抱かせる言動を繰り返したりするその憎まれぶりは常軌を逸しており、殺意を抱かれるほどです。果たしてその目的は何か。それは人々の調和でした。これはアイロニーです。共通の敵を設定することで、人々は結束するという。悪がなくては正義は成り立ちません。(本文一五五頁引用)
⚫ここには[桃太郎]の論理が存在します。桃太郎は正義の味方。英雄です。では彼はなぜ、そうなれたのか。・・・巨悪を見つけられたからです。実は、鬼は何も悪いことをしていません。鬼ヶ島にいただけです。しかし、人々はそこには鬼がいると言います。存在自体を悪と見なされ、そして鬼を討った桃太郎は英雄として迎えられます。(本文一五七頁引用)
⚫そして見えてきたのは、アメリカという国が、自国の正義を世界の正義に、自国の秩序を世界の秩序にしようとしている事実です。(本文一四六頁引用)
⚫オサマ・ビンラディンの死に際し、お祭り騒ぎのようにはしゃぐ米国民を[その印象はどこか、ビンラディン狩りというゲームに勝っただけのような実態の希薄さがある。米国民の歓喜は、(ビンラディンを生んだもの)への想像とまなざしを、いつもながらに欠いてないか]と。本文二〇八頁引用)
⚫[自分の信念はいつでも社会の正義であると疑わない正義][力で押して反論を封じ込める正義][価値観の異なる信念をいつの間にか貶めることで自分の信念に価値を持たせる正義](本文二二六頁引用)
私が今、一番危惧しているのは米国大統領トランプの存在です。ウルトラマン[正義の哲学]で書かれてあるようなプロセスで、[人々のルサンチマンを煽り、人々の憎む敵を作り、その敵を暴言という技法で口撃し、自らが正義の側に立ち、有権者の票を獲得して大統領選に勝利]しました。そしてアメリカ・ファーストの名の下に、これまで先人達が築き上げてきた世界の秩序を破壊しはじめました。トランプはキリスト教のカルバン派というプロテスタント信者です。カルバン派の考え方に、[予定説]があります。予定説とは、[天国の神様の手元にノートがあり、ここに天国へ行ける人の名前があらかじめ書かれてある。つまり人が天国へ行けるか否かは、現世での善行や悪行には左右されない。人は自分の名前がノートに書かれてあることを信じて、ひたすら善く生きてゆくことを努める]という考え方です。裏を返せば[自分は正しい]と強く確信しなから生きてゆくことです。僕は、トランプの根拠無く自分は正しいと思い上がる怖さはここにあると考えます。同時に、[地球は温暖化していない]という考え方には[人間ごときの営みが、神が創造地球の温度に影響を与えることなどあり得ない]という信仰心が根に在ると考えます。
2011年4月30日。ホワイトハウスで行われバラク・オバマ大統領主催のディナーには、不動産王、暴言王とも呼ばれ、そして第45代大統領となるドナルド・トランプの姿もありました。[オバマ大統領は外国生まれだから、合衆国大統領たる資格はない]、トランプはオバマの前でそう吠えました。これに対してオバマが[私の出生問題を追求するほど暇でしたら、ロズウェルUFO
事件の真相、月面着陸は偽物だったという説でも追いかけられてはいかがでしょうか]とうまく切り返すと、その場は大いに笑いに包まれた。
トランプは満場の席でオバマに恥をかかされました。私は、この出来事がトランプの大統領選出馬の動機であると捉えます。トランプのオバマ大統領へのルサンチマンが、世界を未曾有の危機へ招く導火線に火を着けたと後の歴史家は後述するでしょう。
2017年6月現在、衆知の事実としてトランプ大統領の支持率は低下しています。しかし彼は二期目の大統領選挙に勝利することしか頭にありません。米国の大統領支持率は、戦争をすることで上昇します。結果彼は自分の支持率を上げるために、2020年までに戦争を引き起こすでしょう。
現地時間2011年5月1日0時深夜。アフガニスタン南東部のバグラム空軍基地から、米国海軍特殊部隊の精鋭24名を乗せたヘリコプター2機が離陸しました。ウサマ・ビンラディン暗殺を目的とする作戦[ネプチューン・スピア]が発動されたのです。最高司令官としてゴー・サインを出したのはオバマ大統領です。ホワイトハウスでトランプが満場の席でオバマ大統領に恥をかかされた時、オバマ大統領の胸中にあったのは暗殺作戦への強い決意でした。
現在、大統領になったトランプはオバマが大統領として築いた8年間の実積を執拗なまでに破壊しようとしています。同時に、ルサンチマンに絡め捕られた者の常として、オバマ大統領がゴー・サインを出した作戦を超す作戦のゴー・サインを出し、歴史に自分の名を残すことを試みるでしょう。
企業経営者としてディールの失敗は資本の喪失で済みますが、政治家としてディールの失敗は人の血が流れることをトランプは自覚するべきです。
願わくは、私の予測が外れますように祈ります。