触法障がい者の社会復帰について関心があり、國學院大學専任講師の安田恵美さんの「刑事司法にのせられた人の社会参加を支える地域資源の現状と課題」という講演を聴きに行きました。以下に、その講演の内容を整理したいと思っています。
安田さんの講演では、刑事司法にのせられる方がどのような方が多いのか、そうした方を支える理念はどういうものがあるのか、一般社団法人よりそいネットおおさかで調査した特徴的な入口支援・出口支援とはどのような課題があるか、などを話されました。
犯罪をする方にとって刑務所は「最後のセーフティネット」という位置づけがあると言います。では、その受刑者の実態はどういう方々がいるのかというと、受刑者の5人に1人が65歳以上の高齢者、(おそらく)10人に1人が精神・知的等に障がいを有する方々だと言います。平成20年版犯罪白書によれば、犯罪の動機・原因の圧倒的に多いのは「生活困窮を動機とする窃盗の高齢累犯者」だと言うことです。経済的困窮の不安を抱える男性は51.8%、女性は40.7%、ホームレスは27.7%です。高齢受刑者の特徴は非高齢受刑者よりも刑務所に入った回数が多く、単身かつ親族と連絡がない者の割合が多いと言い、頼れるところ・人がいないということです。無職者、収入なしあるいは生活保護受給者の割合も多いです。安田さんはこの傾向は前科前歴がある者において強くあらわれていると言います。
平成26年法務総合研究所研究部報告の「知的障がいを有する受刑者に関する調査」(以下はよりそい調査と略す)によれば、その他の受刑者と比較し、未婚者、生活保護受給者、無職者の割合が高く、教育の程度は低い(中卒が多い)という傾向が出ました。また、ここで言う「生活困窮」とは、頼ることができる人・機関がない、職に就くことが難しい、コミュニケーションが不得意、という要素が強いことを意味し、たんなる経済的困窮を意味していません。
安田さんは、「生活困窮⇒犯罪⇒刑務所」という負のスパイラルを抜け出すためには、「社会的排除ゆえの犯罪⇒社会参加⇒社会復帰」という道筋があると言いますが、安田さんは「社会復帰」よりも「社会参加」を重視します。ここでの「社会参加」とは「社会を広げる・入れる」という意味で使っています。入口支援は「防御権保障に向けた支援」と「ダイバージョンに向けた支援」の2つあると言い、後者は「引き受けてくれるところ・人があるよ」ということ、つまり「出口」です。ここでいう「出口」とは、居場所(住む場所)と出番(仕事)を確保するための支援のことです。安田さんは居場所と出番というとき、それが本当に「住居」や「仕事」だけなのかという疑問を付されていました。
入口支援では、新長崎モデル、滋賀における少年鑑別所と連携、定着支援センターによる相談支援事業としての入口支援、弁護士+福祉機関(埼玉弁護士会社会復帰支援委託援助制度・ほっとぽっと)の取り組みをあげました。出口支援では、環境調整にかわる諸機関、更生保護施設で行っている支援、定着支援センターが行っている支援について説明。
安田さんは「大阪府地域生活定着支援センター」が様々な支援団体が集まって出来上がり、一般社団法人化した団体であると説明。ここでは、「住居・生保のみ」の方はサポートせず、福祉的な専門の見立てが必要な場合のみサポートすることになっていると言います。
ここでの入口支援・出口支援における課題は、アセスメント・調整する時間が限られている、入口支援をサポートする福祉機関・支援者として何をすればよいのかわからない、釈放が未確定なまま調整しなくてはならないため、引き受けてもらえる施設等を探すことが困難、当該被疑者・被告人福祉ニーズに気づかなければ支援ができない、等をあげていました。
安田さんは、支援する側は「社会参加をいかに促進するか」ということが大切だとし、そのためには、「本人が必要としていること、してもらいたい支援、社会復帰のイメージをどう考えられるか」が重要だと話されました。つまり、「本人がどうしたいのか、どう社会参加したいのか」とし、「私たちは専門家ではなく、当事者が中心とするかかわりこそ大切なのではないか」とお話して講演を終えました。
(理事長 山田 育男)