山田明さんはそうした教育現場の実情を踏まえたうえで、「教育の目的」を「市民性を涵養する」に置きます。
「そもそも市民性とは何か。著者が意味するところの市民性とは、社会を少しずつ前に進める原動力となる資質・能力である。自ら問いを立て、自分なりの意見を持ち、他者と対話することで社会を変革していく力である。教育学的な説明をすれば、自尊感情を基盤とした自己理解、他者理解、コミュニケーション能力、ボランティア精神、さらに生きるために必要な政治的リテラシーである。」(福岡教育大学・教育学講義「教育の目的」)
つまり、山田明さんの「市民性」の定義は、「市民性教育(シティズンシップ教育)」をめざしていることを意味しています。そのための教育手法として「サービス・ラーニング」を選択しているのだと考えます。
そこで、山田明さんは、『サービス・ラーニング研究』ではイギリスのシティズンシップ教育を取り上げています。イギリスのシティズンシップ教育の目的は「権利・義務の観念を基盤とした主体的な社会参加の資質・能力」です。「国民一人ひとりの当事者能力と課題解決能力を高めるために導入」し、「社会的・道徳的責任についての学習、地域社会参加の実践学習、政治的リテラシーの獲得」を目標に掲げています。イギリスでは、「低学力と失業の連鎖の断ち切り、政治や社会への積極的な参加」という「政治性」にその目標を焦点化しています。佐貫浩さんによれば、そもそもイギリスのシティズンシップ教育は、「世界的なグローバル化の進行の中で拡大しつつある社会的矛盾と、国民解体とでもいうべき事態をどう克服するか」、「1997年の総選挙への労働党の『反省』」、つまり若者の投票率の低さをどう克服するのか、という事態から強化しています(『イギリスの教育改革と日本』)。山田明さんは日本も含め、イギリスやアメリカ等の先進国には類似した政治・経済・社会・外交等の課題に直面しており、家族間及び地域社会間の相互関係の希薄化や崩壊も共通した現象と捉えています。
「学ぶことを見出せない者、自分自身に自信を見出せず何事にも受け身の姿勢で他人任せな者、社会への主体的な関わりを避けて市民としての責任を果たそうとしない者の増加が顕著になり、それらの閉塞感から生じる家庭・学校・社会への反発、その日暮らしの生活やきわめて不安定な就労の状況にある者、中には社会生活から退避して引きこもるといった現象まで現出している。」(『サービス・ラーニング研究』)
山田明さんはその対策の一つとして、イギリスはシティズンシップ教育、アメリカはサービス・ラーニングがあると言います。また、日本においては「権利・義務の思想や市民性の思想が根づかないところがある」とし、「学力の向上とサービス活動による道徳性を基本とした規律を高めながら自尊感情を獲得させていき、主体的な社会参加の資質及び能力を涵養していく」ことが大切だと考え、山田明さんは、アメリカのサービス・ラーニングがより効果的な教育手法なのではないかと提案しているのです。