正会員・佐藤信行さん
高齢者グループホーム支援員
社会福祉士・介護福祉士
福祉関係の仕事をしていると、大切な言葉をついつい当たり前のように、意識しないで扱ってしまうことがあります。たまに、ふと立ち止まって言葉の意味を考えて、マインドリセットする作業も必要です。今日は、[人権]の意味を考えてみたいと思います。
人権とは、私なりの解釈ですが、[大切な存在、尊い存在として扱われること。差別、不平等、格差からの抑圧を受けないこと。その権利。]と考えます。人はその権利を生まれながらに持っていると、憲法が保障しています。誰もが知っている11条ですね。
では、[権利]とは何でしょうか?私なりの解釈ですが、[やりたいことをする、やりたくないことをしない、されたくないことをされないこと。即ち、自己選択や自己決定の行使。拒否の行使。]と考えます。
では、[人権]の反対語は何でしょうか?独裁や抑圧という言葉が頭に浮かびますが、答は[神権]です。近代史以前、例えば中世の欧州では、神が全権を持っていると考えられてました。神は、契約を守らず勝手な振舞いをする人間に怒り、気に入った者だけを残し、大洪水を起こして人類を滅亡一歩手前に追い込むことを平気でやります。人間界では、神の持つ全権の一部を授けられた者が、人々を支配できると長く考えられてきました。これを[王権神授説]といって、皇帝、王、封建領主、貴族、僧侶たちが、支配体制の正統性の根拠としていました。ですから、先に述べた人権や権利を、当時の被支配階級の人々は有していなかったわけです。被支配階級の人々は、[大切な存在、尊い存在として扱われず、差別、不平等、格差からの抑圧を受けて、やりたいことをさせてもらえず、やりたくないことをやらされ、されたくないことをされていた]のです。
18世紀終盤になって、[神が持っているものは、人も持っている]との啓蒙思想が欧州に広まり、旧体制の支配階級と被支配階級が闘う過程で、人権や権利を人々は取り戻したのです。授けられたのではなく、取り戻したのです。
因みに、啓蒙思想という運動はキリスト教圏のみに起きたことであり、イスラム教圏では起きていません。第一次世界大戦でイスラム教圏の守護者であり盟主のオスマン トルコが敗れ滅亡すると、以降イスラム教圏はキリスト教圏列強諸国の搾取の対象となります。啓蒙思想の洗礼を受けてないので、人権思想が芽生えず、欧州(キリスト教圏)流の民主化運動は中東ではなかなか根付きません。これが、現在中東で起きている悲劇の根本的な原因です。
故に、憲法が保障していることは、[人々が被支配者となって、支配者から人権や権利を奪われることを防ぐこと]であると考えます。
福祉の現場では、利用者さんの安全のために、利用者さんがやりたいことに規制をかける場面があります。それはやむを得ないことであっても私たち介護者は、その度に人権や権利について立ち止まって考えてみることが大切と思います。