正会員・佐藤信行さん
高齢者グループホーム支援員
社会福祉士・介護福祉士
米国では、銃を使用した犯罪による犠牲者が大勢いるにも関わらず、[銃規制がなぜ進まないのか?]を、紙面をお借りして一緒に考えてみたいと思います。
合衆国憲法 権利章典修正第二条
[規律ある民兵は、自由な国家の安全保障に必要であるから、人民が武器を保持または携帯する権利は、これを侵してはならない]
英国は、米国独立戦争(1775年当時)に、独立を阻止するために英国本国から、正規軍を派遣し米国人民の武器を取り上げようとしました。これに対して米国人民は民兵を組織して、英国正規軍を迎え撃ち勝利します。これを、レキシントン・コンケードの闘いと言います。
つまり、米国建国の成り立ちに、人民が武器を用いて独立戦争を勝利に導いたことが、米国の人々にとって神聖な出来事であり、よって1789年(フランス革命の年)に権利章典修正第二条が制定されたのです。
以降19世紀は、これまた銃を用いて西部を開拓しました。事実は欧州から来た白人が、銃を用いてネイティブの土地を奪ったのですが、白人の視点では、[銃を用いて北米大陸に平和なキリスト教国家を建設した]となります。故に、西部開拓に用いられた回転式六連発銃は、ピースメーカー(平和を作る銃)と名付けられてました。
独立戦争と西部開拓での銃の存在が、単に道具としてだけでなく、米国アイデンティティの根幹、精神的支柱となり今日まで続いてます。この感覚は、16世紀末に、秀吉の刀狩りによって武器を手放した私たち日本人には理解出来ないものと思われます。私は、日本人の尺度で、米国銃規制問題は計れないと考えます。
現在、米国国民は約3億人います。そして、米国社会の中には2億5千万挺の銃があると言われてます。これは、単純計算で米国国民の10人の内9人が、1人1挺づつ銃を所持していることになります。
銃所持の申請については、州ごとに異なり、概ね次の4つに分けられます。
・申請しなくても所持できる。
・申請すれば、所持できる。
・申請して、審査をクリアすれば、所持できる。
・所持は禁止されている。
米国は合衆国ゆえに、州の独自性が強く保障されています。銃規制の難しさは、合衆国連邦上院下院議会で、銃規制の法案が可決されても、50の各州が全て右へ倣えとはいかないのです。各州には先に述べた、申請についての独自のルールが厳密に存在しているからです。故に、米国社会に内在する2億5千万挺の銃を一斉に回収することは不可能で、もし、銃規制の法律が施行された場合、法律に従うのは善良な市民であり、犯罪を犯す者は法律に従わない訳ですから、米国社会は、[銃を所持しない善良な市民と、銃を所持する犯罪者]という明確な構図が出来てしまいます。これは、犯罪者にとって、丸腰の獲物(ソフトターゲット)が増えることであり、今以上に銃を用いた犯罪が増加することが予測されるのです。[銃規制が犯罪抑止に効果の無い場合がある]。これが、銃規制が進まない大きな理由なのです。
米国は一般市民が武器を秘匿携帯(隠し持つ)することを原則禁止しています。[隠し持つのは、隠し持つ理由があるからだろう]と解釈されるからてす。ですから、銃を携帯する際は、銃を携帯していることが周囲にわかるように携帯します。今、米国では、[厳密な審査をパスした一般市民が、銃を秘匿携帯出来るライセンス、銃器秘匿携帯許可証]を発行する州が増えてます。これは、銃を所持した者が犯罪を行おうとする場面で、銃を秘匿携帯した市民(ハードターゲット)から反撃されることがあることを予測させ、犯罪そのものを未遂に終らせる抑止効果を狙ったものです。銃器秘匿携帯許可証は取得するのに高いハードルが設けられてます。裏を返せば、許可証を取得している者は、[全うな信用できる人物]とのお墨付きを貰える訳で、それを目的に取得する人が年々増えているそうです。
国の成り立ちが違う日本人である私が、米国銃規制について米国国民に語る資格はありません。しかし、同盟国の友人としてあえて意見します。
[私は、銃規制に賛成です]
銃の本質は生命を殺傷するものです。軍用ライフルの民間仕様が合法的に入手できるのは間違ってます。しかし、先に述べた米国の事情により、犯罪抑止に効果の無い銃規制には、市民が、より危険に晒される問題があります。社会を人体に例えるならば、銃を用いた犯罪は癌です。犯罪抑止に効果のない銃規制は、良性細胞にも放射線を当ててしまう、人体高侵襲性な放射線療法に似ています。大切なことは、[銃を用いて罪を犯す人の心、及びその動機]を、社会全体で改善する努力を積むということです。
故に、銃を用いた犯罪は本質的には、道徳教育の充実と社会保障(医療、福祉、雇用)の抜本的な改革を要する問題と考えます。その意味では、オバマ前大統領の医療制度改革が骨抜きにされたのは残念です。