認知症高齢者グループホーム勤務
社会福祉士 佐藤 信行
19世紀末、欧州列強は帝国主義的な動きを強め、列強同士の小競り合いは第一次大戦の扉を開く直前でした。一方、各国の人々は軍靴の音に怯えていたわけではなく、1890年代から第一次大戦(1914年から1918年)開戦まで、都市開発、科学技術の発展 等、消費文化を謳歌していました。都市間は蒸気機関車で結ばれ、市内では、乗り合いバスや地下鉄が開業、百貨店がオープンしました。アートの世界では、印象派、アール・ヌーボー 等、先鋭的な画法が試みられ、オペラ、演劇、コンサートが市民の身近な存在となりました。後の世の人々は、この古き良き時代を振り返り、[ベル・エポック]と名づけました。
第一次大戦から遡ること100年前、欧州を荒廃させたナポレオン戦争の反省により、ロシア皇帝、オーストリア皇帝、プロシア王らが、神聖ローマ帝国を模したウィーン(狭義の)アンシャン・レジーム体制を敷き、復古的な欧州秩序の復権を試みます。アンシャン・レジーム体制は1848年の二月革命で瓦解しますが、欧州秩序の維持は継続し、ウィーン(広義の)体制は保たれました。欧州の人々が受傷した第一次大戦の心的後遺症とは、100年続いた啓蒙思想的な欧州秩序体制下でありながら大量殺戮兵器を用いて、特にキリスト教国同士の闘いで、何百万人もの犠牲者を出す戦争を惹き起こしてしまったことにあります。ベル・エポックの消費文化による平和を謳歌していた人々は、自分たちが世界大戦に巻き込まれるとは微塵も思っていなったのです。
現在は、第一次大戦終戦から100年(第二次大戦終戦から70年)です。私たちは、第二のベル・エポックの世に生きているのではないでしょうか?見渡せば、都市開発、科学技術の発展、アニメーションやアートの先鋭的試み、都市間は航空機、高速鉄道により結ばれ、市内はハイブリッドなバスやタクシーが走り、IT技術を駆使した消費文化を謳歌してます。一方で、帝国主義的な動きを強める、米国トランプ大統領、露国プーチン大統領、中華習主席、トルコエルドアン大統領ら大国の小競り合いが日常化してます。合わせて、欧州各国の右派台頭、中東情勢混乱、難民流出、朝鮮半島有事と、世界中が火薬庫化しています。
そして、この状況にあっても日本人の多くは、ベル・エポックの時代を生きた欧州の人々と同様に、自分たちが厄災に巻き込まれるとは微塵も思っていないでしょう。
続く
参考文献 時空旅人 2014年11月号
写真 アルフォンス・ミュシャ 1900年パリ万国博覧会ポスター