歴史から学ぶ２ 　～国民国家の融解～

 

歴史から学ぶ２　～国民国家の融解～

　　　

　　　　認知症高齢者グループホーム勤務     

 

　　　社会福祉士　佐藤　信行

 

　私には、第一次大戦直前に消費文化を謳歌していた欧州の人々と、現代に生きる自分たちの姿がオーバーラップして見えます。ベル・エポック時代を生きた欧州の人々は第一次大戦の戦禍に巻き込まれますが、現代の私たちはどの様な厄災を被るのでしょうか？私は世界大戦のような大規模紛争ではないと思います。大国同士の潰し合いは、もはや双方自滅となることが分かっているので、歴史の同じ轍を踏むことは避けると考えます。現在起きている、国境を人、物、金が自由に移動するグローバリズムや難民流出、中東情勢混乱、欧州各国の右派台頭や自国第一主義、そして大国の帝国主義的な動きが指し示すものは、[国民国家の融解と同時に進行する周辺国との融合、融合した周辺国を従える大国による帝国(文明を一つの単位とする)の地球の分割統治]です。

　私たちは、当たり前のように国[国民国家]を一つの単位として社会契約を踏まえ生存権を保障します。例えば、私は日本国籍を有する日本人であり、日本国により生存権を保障されてます。しかし、国境を人、物、金が自由に移動して経済活動がボーダーレスになり、また難民流出等が絡んでくると、もはや一国の努力だけでは自国民の生存権を脅かす問題を解決できず、国民国家を一つの単位として国民の生存権を保障することができないのが、現代に生きる私たちのリアルな世界です。これが国境が融け始めている国民国家の融解です。

 

国境が融け始めると何が起きるか？　それは、外部より異質なもの、都合の悪いものが流入してくることになります。例えば、安い労働力、価格の安い商品、治安の悪化を招くもの　等です。これらに対して怒りを抱いた人々は、[安い労働力は出て行け！価格の安い商品は出て行け！治安の悪化を招くものは出て行け！]となります。これが、民衆の怨嗟を巧みに利用した自国第一主義や欧州の右派台頭現象です。つまり、[アメリカ　ファースト]であり、[フランスをフランス人の手に取り戻せ]と言ったものです。

　自国第一主義とは、国民国家の融解に対する拒絶反応であり、軋みであり、断末魔であると捉えます。つまり、国民国家の融解は避けることのできない歴史の流れです。過去の歴史が教えることは、歴史が変わる時は必ず大きな反動が起こることです。イラクとシリア国境でのＩＳ(イスラミック・ステート)運動も同様です。

　そして、私たちは今その渦中に生きているのです。

 

続く