認知症高齢者グループホーム勤務
社会福祉士 佐藤 信行
私の勤務する認知症高齢者グループホームに近所の小学六年生が総合学習の一環で職場体験に来ました。児童は三名で内一人が女子、二人が男子です。当日は私が日勤なので職場体験の担当となりました。
約束の時間丁度に、瞳の大きなヒョロリと背の高い女の子とスポーツの得意そうな男の子と植物図鑑が好きそうな眼鏡をかけた男の子が玄関に現れました。オリエンテーションで女の子から「認知症グループホームとはどんな施設ですか?」の質問を受け、私は「サザエさん家のような所だよ」と答えると明らかに三人の表情に?マークが浮かびました。「ここの職員は気持ちの上ではグループホームは施設ではなく家庭と思っています。サザエさん家の波平さんと舟さんがとっても物忘れが多くなってしまい、サザエさんとマスオさんとワカメちゃんとカツオ君が二人のお世話をしています。僕はマスオさんだよ。今日は君たちにワカメちゃんとカツオ君の役をやってもらいましょう」三人の表情に笑顔が戻りました。
グループホームのリビングでは九人の入居者さんがCDに合わせて合唱していました。スポーツの得意そうな男の子が一人の男性入居者さんを見て「あっ!」と声をあげました。その入居者さんは頭の形、眼鏡、ちょび髭が波平さんそっくりでした。女の子ともう一人の男の子も「本当にサザエさん家だね・・」とささやき合ってました。三人は入居者さんの輪の中に入って歌集を受けとり一緒に歌いました。スピーカーから流れてくる曲は「ふるさと」「赤とんぼ」「この道」・・・といった懐かしい想い出の歌です。「あおげば尊し」を歌っている時に女性の入居者さんが「この歌は卒業式に歌ったの、懐かしいわぁ」と眼鏡をかけた男の子に語りかけました。最近は卒業式で「あおげば尊し」を歌わないのですが男の子は気を遣ったのか「そうですね」と笑顔で応えました。
正午に近くなり三人は学校へ帰る時間となりました。入居者さんの前でお礼を言って礼儀正しく頭を下げました。「また、遊びにおいで」と声を掛けられると「はい、また来ます」と元気に応え帰ってゆきました。
1週間程経って、私と入居者さんがスーパーからの帰り道に歩いていると「マスオさーん!」と女の子の声がしました。振り返ると通りの向こうを三人の子どもたちが笑いながら勢いよく駆けてゆく後ろ姿でした。