社会福祉士 佐藤 信行
今から30年以上前、米国が誰からも憧れられた時代がありました。高卒自動車工場勤務者(ブルーカラー諸氏)が、郊外に庭つき一軒家を購入して、子ども二人の高等学校教育費用を賄えるだけの収入が保障されていた時代です。以降米国鉄工業は貿易摩擦の過程で凋落してゆきます。当時のインタビューに、日産フェアレディZを見たアフリカ系米国人が「ドイツ製のスポーツカーと同性能の車が半値なら買うよ」と答えている姿が象徴的でした。
第45代米国大統領の支援者特に鉄工業ブルーカラー諸氏は、30年以上前の米国を再現して欲しいと望む人々です。私は、70年代の米国鉄工業製品が大好きです。と同時にこれらの工芸品的な製品が今後量産品として製作されることは無いことも知っています。当然、米国ブルーカラー諸氏も知っています。技術の進歩と製品に対するニーズが変化してきたことも理由の一つですが、国境を越えて流入出する、人、もの、金が、高い人件費をかけて熟練工が製作する量産品の存在を許さないからです。つまり「壁を築いても」約束した公約は、果たされないのです。
真に危惧すべき事は、現在の米国ブルーカラー諸氏もまた30年以上前の米国が再現されることは無い『公約は果たされない』と知りつつも、自らのルサンチマンをぶつけるやり処を投票する形で、世界を危機に導く作用に貢献してしまうことです。
魔王と恐れられた織田信長は、天下統一の過程で中世の権威を破壊しました。時代の変革期には、信長のような既成の権威を破壊する者が顕れます。それは、「天が遣わした」と表現できるかもしれません。その者が使命を果たした時、新たな時代の扉が開かれる様を歴史は繰り返してきました。『神は人のためにおられる』のであるならば、より良い世界の創造、救済のために「彼」を遣わしたのだと、私は信じたいです。