洞察(マニュアル化できないスキル　３)

洞察(マニュアル化できないスキル　３)
社会福祉士　佐藤　信行

　インターネットでは、フェイクニュースといった人心を惑わす情報が跳梁跋扈しています。コンピューターが進化した近未来に、コンピューターの反乱が起き人類に害をなすであろうことは、ＳＦ小説や映画の中で度々警鐘されてきましたが「制御不能の悪意に満ちたフェイクニュースによる社会の混乱」という形で顕れるとは予測されませんでした。今、私たちはＳＮＳにより簡単に大量の情報を得ることができます。しかし、その情報の真偽を確かめる術をコンピューターは提供してくれません。真偽を判断するのは情報得た人です。大量の情報の中から、偽りの情報を排して正しく自分に必要な情報を獲得するプロセスの最後には、人に正しく判断する能力が要求されます。

　正しく判断する能力を得るには如何にすべきか？これがインターネット社会に生きる私たちに課された宿題です。私は、この能力をマニュアル化できないスキル「真偽を見抜く洞察力」と捉えています。

洞察とは「見抜く能力です。」それを得るには「本物を知ること。」と「危険に対する嗅覚を磨くこと。」です。具体的な方法は千差万別です。一つ言えることは、能力を獲得するには長い時間を要することですから、自分の興味のある分野を探究するのが近道です。自分の興味のある分野で本物を知れば、偽物を知ることにも繋がります。その過程で、多くの失敗を経験して危険に対する嗅覚も磨かれます。故に、失敗に無駄なものはありません。この際、内省することが大切です。失敗の原因を明らかにする姿勢が洞察力を磨きます。また、古典に触れることです。古典には人類の叡智が凝縮されています。古典は長い歴史の間に磨かれ、淘汰されずに生き残ってきたものです。タイムプルーフされたものは、正に本物中の本物です。

　古来、日本人は危険に対して敏感な嗅覚を持つ民でした。１６世紀以降諸外国において伝染病のごときに広まったキリスト教が、日本で広がらなかったのは、キリスト教宣教の背後に、西欧列強の危険な思惑があり、当時の日本人がそれを察知したものと推察します。この、危険に対する敏感な嗅覚が、戦後泰平の世で衰えてしまいました。しかし、古来日本人の末裔である現代日本人にも、その遺伝子は継承されているわけですから、磨けば洞察力も輝ると信じます。

　福祉の現場でも、洞察力は重要なスキルです。利用者様の権利、安全、健康を守るため、様々な情報を正しく判断することは職員にも求められます。

　マニュアル化できないスキルについて「内省」、「直観」、「洞察」と三つの能力を語ってきました。次回は、近未来を迎えるにあたり三つの能力獲得の意味について述べたいと思います。