クエスト

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社会福祉士　佐藤信行

　ぼくは、休日にスナック菓子を食べながら、テレビの二時間サスペンスドラマの再放送を観るのが趣味です。配役に京本政樹さんや長谷川初範さんが華道の家元役や総合病院理事長役で出てきたら間違いなく犯人です。ぼくが好きなのは、社会派推理小説とカテゴライズされる森村誠一氏の作品です。心に傷を持つ、過去に挫折のある主人公が事件を推理する話が気になります。例えば、東山紀之さんが演じる棟居刑事シリーズが好きです。

　人は、誰しも自分の気になるものがあります。それはイコール自分の好きなものであり、場合によっては趣味となります。様々な分野にわたり、音楽、絵画、陶芸、園芸、料理、旅行、写真、書籍、映画、車、バイク、スポーツ、贔屓チームの観戦・・・うーん、たくさんありますね。

　人は、自分の気になる対象の何に惹かれるのでしょう？好きな音楽や楽器の中に、好きな絵画の中に、好きな陶器の中に、好きなスポーツの中に、贔屓チームの中に・・・何を感じるのでしょうか？ぼくは、気になるものの中に、好きなものの中に、無意識に自分と同じもの、自分自身を見つけるのだと思います。だから、気になるものを探求すること、好きなものを探求することは、自分は何者か？自分探しのクエストであると考えます。

　気になる対象の中に自分自身があるのは、「気になる対象の中に、神さまが管理するクラウドからダウンロードした善なるソフト(普遍性)と、同じソフトが自分の中にあるから」と考えます。気になる対象を探し極めることは、同時に自分が何者であるのかを知る求道の旅であると捉えます。

ぼくは、若い頃登山を趣味にしていました。山の頂で海苔ピーパックをつまみに呑むフラスコに入れたウィスキーは、これまでの人生で呑んだ酒の中でダントツの旨さです。山で楽しく過ごすために学んだことは、荷物は軽ければ軽いほうが良いことです。便利さを描いて沢山の荷物を背負うと、その重さで登山そのものが苦痛となります。自分の限界を考え、一つの装備に複数の機能を持たせ、耐久性を有し、シンプルな操作性を可能とする、信頼できる必要最低限のものだけを吟味する。勿論、酒は欠かせません。

　ぼくは、歴史の中、日常の生活の中で淘汰されずにあるものには、その普遍性が宿っていると信じます。その普遍性と同じものが自分自身の中にあり、その普遍性を知ることが善なる自分を知ることです。これが好きな古典を学ぶ意味です。音楽や絵画や陶芸を探求することは、自分の中にある普遍性を求道するクエストですね。

　ぼくが、森村誠一氏の推理小説が好きな理由は、どんなに悲惨な事件や悲劇的な結末でも、ラストに必ず「救い」を描いているからです。トに必ず「救い」を描いているからです。人の世は、怒り、悲しみ、怨み、嫉妬、心の闇に満ちています。その闇に満ちた人の世で、と一抹の救いを信じることが、生きることへの力の源であると、ぼくは信じています。

　二時間サスペンスドラマを観るときに、海苔ピーパックは欠かせないです。