ミラーニューロン
社会福祉士 佐藤信行
映画やスボーツ観戦で、登場人物やブレーヤーの喜怒哀楽に感情移入することがありますね。これは、他人の身に起きた出来事を、我が身に起きた出来事として捉える作用「共感 エンパシー」です。介護や要支援者への支援に携わる者が、利用者さんに関わる(寄り添う)時、この力「共感力」が大切です。現場では、利用者さんの心の痛みを和らげるために、利用者さんの喜怒哀楽を共感することが支援者に求められる場合があります。
共感力の脳の仕組みで、注目されているのが「ミラーニューロン」と云う脳神経細胞です。神経科学の研究では、他人の身体の動きを観た被験者の脳内で、自分が同じ身体の動きをした時と同様の活動電位が観察されるとのことです。例えば野球観戦で、ピッチャーがボールを投げた映像を観て、観た人の脳内でミラーニューロン細胞により、実際に自分がボールを投げた時に顕れる活動電位と同じ活動電位が顕れるのです。これと同様に、ドラマを観た時にドラマの登場人物の喜怒哀楽を共感する作用に、視聴者の脳内でミラーニューロン細胞が働いているとのことです。実際に自分の身に起きてないことでも、ミラーニューロン細胞により、自分の身に起きた如く心理的影響が作用されます。プラスの効果として「模倣学習」があげられます。霊長類人類はミラーニューロン細胞により進歩してきたと言えます。
一方、マイナスの効果もあります。辛い体験をした要支援者に支援者が寄り添う時、要支援者の怒り・哀しみを、支援者が共感する過程で同じ怒り・哀しみを追体験することになり、マイナスの心理作用が支援者に心的外傷を負わせることがあります。私は、介護や支援の現場での、働き人の離職原因の一つに、この心的外傷があると考えます。支援者は、要支援者に寄り添う時、共感力は大切ですが、一方で心的外傷のリスクを伴うことも留意する必要があります。
共感力を必要とする仕事に就く時、先ず自分の身を守る術を体得しなければなりません。その術は「心的外傷を負わない」か「心的外傷を癒す」です。私の持論は、要支援者への支援は必ず心的外傷を伴うと考えているので「心的外傷を負わない」の解はありません。故に「心的外傷を癒す術を身につける」が解となります。怒り・哀しみによる心的外傷は、喜び・楽しみの体験によって癒すことです。また、私たちは骨折したり、怪我をした時は、その患部を動かさないようにしたり、触らないようにします。心が外傷を受けた時も同様に、心に負担をかけないことが大切です。具体的には、心を空っぽにする時間を設けることです。
音楽を聴く、映画を観る、旅行に行く、美術館に行く、スボーツをする、草花や農作物を育てる、動物と戯れる、創作活動を行う、宴会を催す 楽しいことを積極的にやりましょう。そして、好きなことに打ち込み心を空っぽにしましょう。
参考文献:善く死ぬための身体論 著者 内田樹 成瀬雅春 出版 集英社新書