８０５０の処方箋を考える ～善い大人たちとの出逢い　2～

 

 

８０５０の処方箋を考える
～善い大人たちとの出逢い　2～

 

 

理事　佐藤　信行

　高校に入って最初のつまずきは、数学の因数分解でした。高校数学基本中の基本を理解できず、以降数学の授業は僕にとって拷問に等しい時間でした。次の試練は現代文でした。よくある「次の文章を読んで設問に答えよ。」は、文章を読み終える頃には、文章の前半に何を書いてあったのか思い出せず解答できませんでした。つまり、読解力が皆無だったのです。今思えば、一種の学習障害だったのかもしれません。中間、期末の試験勉強も、いくら頑張っても点数がとれませんでした。勉強のやり方以前に、脳に原因があったのかもしれません。

　学業不振に拍車がかかり、不登校を再発するのに時間を要しませんでした。プラモデルを買い込んで、塗装に使うシンナーの匂いを漂せながら部屋に籠っている僕のことを心配した母が、僕を外の世界に連れ出そうといろいろ仕掛けてきました。当時「朗読の会」に入っていた母は、朗読の会の主宰者が劇団を有し、その座長も兼ねていたため、座長に僕のことを相談したら「今度、連れてきなさい」と救いの手を差し伸べてくれました。僕は、母からその話を聞いて「俳優になれれば、学校に行かなくても食っていけるな。」と不届きなことを考え、まんまと母の仕掛けにひっかかりました。

 

座長を訪ねに行くと、３０代半ばの緒形拳に似ている精悍な男性が僕を待っていました。彼は僕に「君はガッツがあるか！」と尋ねました。僕は「ガッツとかは、あんまり、ありません。」と答えました。これが師匠と僕との初めての会話です。

　劇団の稽古は西千葉駅近くの公民館で、大人の部は毎週木曜夜、子供の部は毎週日曜日昼でした。師匠は高校生の僕に「佐藤君はどちらにも入れるよ。」と双方に受け入れてくれました。プロテスタント系教会から足が遠退い、日曜日は師匠と劇団で過ごすことになりました。公演の打ち上げに連れて行かれた居酒屋(僕はコカ・コーラ)で初めて食べたゴーヤ・チャルプルの苦かった味は良い思い出です。

　劇団に通うようになっても、因数分解が解けたり、文章読解力が身につくわけでもなく、居心地の悪い学校からは足が遠退きました。欠席日数が増えて留年となり、そのまま退学しました。また、劇団でもセリフが覚えられずに苦労しました。決定的に暗記力が弱かったようです。師匠は僕に舞台美術のイロハを教え、確かに僕は役者よりも裏方の方が性に合っていました。師匠に出逢い、その事に気づかされました。しかし、仲間と協力して芝居を作るよりも、一人でプラモデルを作る方が、より僕の性に合っていたため、劇団からも次第に足が遠退き、誰とも会わない引きこもり生活に深く深く入って行きました。
　そんなある日、母が「信行、温泉に連れていってあげるよ。」と、群馬草津温泉のパンフレットを見せてくれました。母は、新たな計画を僕に仕掛けてきたのです・・・