木こり塾
理事 佐藤 信行
「・・・お祖父ちゃんの山は勝手に売っちゃダメよ・・ラジオは聴いてる?NHKの番組・・・木は売れるのよ・・ジバツガタリンギョウって云うの・・・よく調べてね・・」
千葉の老人ホームで暮らしている母から電話がありました。NHKのラジオ番組で聴いた情報を僕に伝えようとした訳です。今年、房総半島は台風15号で被災しました。猫の額程の面積のお祖父ちゃんの山は被災地のど真ん中にあります。幸い甚大な浸水被害は免れましたが、過疎地故に山は荒れ放題になっていて、所有者である僕らは以前からその整理が頭痛の種になっていました。その経緯の中で、母はラジオ番組でジバツガタリンギョウを知ったのです。ジバツガタリンギョウとは「自伐型林業」のことです。
日本の国土は7割が森林です。人々は古来より森林を燃料や建築資材、生活物資の供給源として利用してきました。しかし、こうした状況は1960年代から大きく変化してきました。化学肥料の普及と原油輸入によって草や薪炭の利用が激減し、産業用材も経済成長と貿易自由化に伴い海外から大量に輸入されるようになりました。2002年には日本の木材自給率は20%まで低下し、木材の8割を輸入に頼るようになってしまいました。
ところが最近、木材加工の原料基盤が国産材にシフトしてきました。理由は、海外からの材木価格の上昇や円安、戦後に植林した国内の人工林が利用時期を迎えていることが背景にあります。大規模な木材需要が生まれたことで、安定した木材供給が求められ、それにこたえるような施策が展開されるようになりました。2017年には木材自給率が36%まで回復してきました。エネルギーを木材にシフトすれば、原油輸入でだけに頼らない国造りが目指せます。
今、注目されているのが「自伐型林業」です。自伐型林業とは、その無名の通り、個人が自分で伐採して木材を売る林業です。担い手は、山林の所有者でも、山林を所有していない人でも可能です。それを可能にしているのは「使いやすい小型の機械が廉価になり、経験のない個人んでも丸太の搬出がてできるようになった」からです。技術習得の講習もあります。現在、多くの人が自伐型林業を担っています。例えば、サラリーマンが週末の副業として収入を得ています。個人でやっているのでノルマも赤字もありません。また、個人による間伐は、森林の保全に繋がります。管理能力の無い森林所有者が、山林を低価格で手放してしまうような事態を守ることにも繋がります。自伐型林業は21世紀の地方再生の切り札となるでしょう。
僕のお祖父ちゃんは、僕が生まれた時に山に杉を植林しました。53年前のことです。山の麓には、廃屋寸前のお祖父ちゃんの家があります。僕はライフワークとして、お祖父ちゃんの家を前線基地と位置づけ自伐型林業を副業として展開しようと考えてます。将来は、生活困窮の事情を抱えている方々の、住まいと就労の館として役立てたいと思います。
館の名前は「木こり塾」です。
参考 森林再生への挑戦:「自伐型林業」という新しい風 佐藤宣子